ヒロセは、補強土分野のパイオニアとして、盛土や切土など土構造物における補強土工法の進展をリードし、数々の実績を積み重ねてきた。
なかでも、高い垂直盛土を可能にしたテールアルメ工法は、導入以来すでに30年を経過した現在も、信頼性の高い優れた工法として、全国各地の盛土構造物工事に数多く用いられている。
そしていま、ヒロセは、切土構造物においても、工事費の低減や工期短縮、高い防災性といった時代のニーズに応える新しい画期的な工法の提案、導入を進めている。
この新工法導入プロジェクトを当初から牽引した技術担当の高尾と営業担当の森岡は、まず、切土構造物の土留擁壁に用いられる大型ブロックの市場調査と工法の研究を開始した。2003年夏のことである。
そして、30種以上もの既存の大型ブロックを比較検討するなかで、あるブロックが2人の目にとまった。それが、自立式の大型ブロック、NSSブロック(NEW SELF STANDING SAFETY BLOCK)だった。
「切土構造物の土留擁壁は、胴込め材料にコンクリートを用いて厚く補強する“大型ブロック積擁壁”が一般的です。これに対し、まだ広く普及していない構造として、ブロックの結合部を鉄筋コンクリートで一体化して擁壁を築く“鉄筋コンクリート一体型ブロック積擁壁”があります。
私たちは、この大型ブロックの登場こそ1995年の阪神大震災を契機とする様々な震災の経験により防災性(耐震性)の高い商品を求めるニーズの顕在化の端緒であると判断いたしました。
また、調査を重ねるにつれ、この大型ブロックは、防災性に優れた非常に有効な構造であるだけでなく、従来の大型ブロックに比べてコンクリート量や切土量が大幅に削減できることが判明いたしました。つまり、ヒロセが、大型ブロックの提案を行い、全国的にこの工法を普及させることで、切土構造物に一つの革新をもたらすことができるのではないか、と考えたのです」(高尾)
NSSブロックは、ある二次コンクリート製品メーカーが開発した鉄筋コンクリート構造の自立式ブロックである。「道路土工−擁壁工指針」に準拠した大型ブロックで、鉄筋コンクリートで一体化した大型ブロックを積み上げる工法により、切土構造物における擁壁の建設費削減と、擁壁構造の安定性を実現したところに大きな特長がある。
「積み上げた自立式大型ブロックと土壁の隙間は、砕石を詰め込む構造になっています。ですから、胴込めコンクリートがいりません。これにより、従来のもたれ式擁壁に比べ、コンクリートボリュームが削減できるというわけです。また、コンクリートブロックと土壁の間に砕石があるため、そこが排水層となり、雨水や地下水などを逃がす背面排水層も不要です。その分、切土量も少なくなります。つまり、非常に経済性に優れた工法なのです」(高尾)
さらに、NSSブロックは自立式ブロックのため、それを積み上げることによって擁壁を築けるので、工事の作業効率も高い。また、ブロック1個が3m2の大型であることも、工事のスピード化につながる。
「このように工期の短縮化に貢献する高い施工性も、NSSブロックの特長です。しかも、鉄筋をブロックの支柱とすることで、高い防災性も確保されている。この工法ならば、全国の切土構造物の擁壁工事に採用していただけるに違いない、と確信しました」(高尾)
高尾と森岡は、数ヵ月にわたる自己調査を経て、会社で運用されていた「アクションプラン」を利用して、NSSブロックをヒロセの補強土工法として採用することを会社に提案した。
「全社的にテールアルメ工法に続く大型商品の企画・導入が求められるなかで、NSSブロックとの出会いは衝撃的でした。調査を進めるにつれ、NSSブロックは大型商品に成長する可能性が十分あることの確信を深めました。そして、自分たちのこの確信をぜひとも実現させたいと思いました」(森岡)
部内のアクションプランでのプレゼンから、役員会のプレゼンと、2人には今まで経験しなかった見識・企画力が要求された。
「調査の不十分さや導入に当たっての問題点など多くの指摘を受けましたが、良い勉強になりました。今まで、導入された商品の拡販を主に担当してきたので、戸惑いや苦労も多かった。しかし、新しい商品の導入に一から携われることに大きなやりがいと喜びを感じました」(森岡)
- ※ アクションプラン
- ヒロセが業務改革の一環として1998年より導入しているアクションシステムのひとつ。当初想定されていた業務問題解決の場の提供にとどまらず、新商品採用等様々な意見が幅広く集まる場として運用されている。
そして、2003年10月、2人の努力は大きな実を結ぶ。NSSブロックをヒロセとして全国展開していくことが決定したのだ。
「導入が決定したとき、喜びよりも責任の重さを改めて感じました。そして、次にしなければならない様々なことが頭に浮かびました」(高尾)
というのも、NSSブロックは、二次コンクリート製品メーカーが独自に開発し、地域限定で販売していたこともあり、全国ルールで設計・施工ができるように、技術資料の整備や施工のマニュアル化が必要だったからだ。
高尾は、この作業に約2ヵ月間没頭し、全国展開するに必要な技術資料を揃えた。
そして、2003年12月にNSSブロックをヒロセが提案する補強土工法としてリリースしたのである。
「提案活動の開始」
NSSブロックのリリースを受け、この工法導入の営業担当者である森岡は、直ちに各本支店の営業担当者と共にコンサルティング会社や土木会社に提案活動を開始した。
「やはり提案のポイントは、経済性と施工性の良さ、そして耐震性です。新しい工法は、実績が少ないだけに、たとえ優れていたとしても採用していただくのはなかなか大変です。しかし、従来のもたれ式擁壁と比較し、NSSブロックの優位性は明白。ですから、そのメリットを粘り強く説明することに努めました」(森岡)
そうした森岡を初めとする各本支店の営業担当者の熱心な提案活動が功を奏し、2004年5月、山梨県の国道工事にNSSブロックが採用されることとなった。
「工事責任者の方が、新しい工法の採用に積極的な人で、経済性はもちろん、耐震性も評価していただき、『一度試してみたい』とおっしゃってくださったのです」(森岡)
しかし、この現場で思わぬ問題が発生することになった。
NSSブロックでは、基礎ブロックに縦貫鉄筋を設置し、そこにNSSブロックを積み上げていく。ブロックを正確な位置に積み上げるには、この縦貫鉄筋を精度よく設置する必要があるのだ。ところが、この鉄筋が微妙にたわむため、「鉄筋の設置精度を保つのに手間がかかる」という声が現場から上がってきたのだ。
ヒロセ技術陣の対応は早かった。早速、施工部門のスタッフと協力して、鉄筋のたわみを防ぐ対策を練った。そして、縦貫鉄筋とそれを支持する単管足場を簡単につなぐことができるようにする施工冶具を開発。これにより、鉄筋の設置精度を高め、ブロック設置工程の円滑化・迅速化を図ったのである。
「この冶具の開発は大きかったですね。以後、施工上の問題点を指摘されることはほとんどなくなりました。施工実績が増えるにつれ、NSSブロックに関心を示す方も多くなってきました」と森岡は言う。
その言葉を裏付けるかのように、NSSブロックは導入2年目に採用件数が前年比2倍となり、普及が着々と進んでいる。
「今後の大きなテーマは、もたれ式擁壁に代わる大型ブロックとして、NSSブロックを業界のスタンダードにしていくことです」と高尾は言う。
そのために、官学の研究機関と耐震性や耐水性などNSSブロックのさまざまな性能試験の共同研究を今後行う予定である。NSSブロックの性能を裏付ける科学的なデータを蓄積することで、この工法の信頼性を広くアピールすることが目的である。
「現在は、道路工事や宅地造成などにおける切土擁壁が主な用途であるが、今後は河川の護岸や擁壁工事などにも、このNSSブロックを普及させていきたい。適応範囲を広げていくには、現在の高さ制限をさらに上げることも必要である。より耐震性を高める工法の検討も必要である。また、自然対応型のブロックの開発もテーマの一つである。NSSブロックを、より幅広いニーズに応える工法へと高めていけば、普及にさらに拍車がかかるはずである。業界でのスタンダード化は、射程距離にある目標です」と森岡は目を輝かせる。
補強土工法のさらなる進展を目指し、ヒロセの挑戦はこれからも続く。




