ピックアッププロジェクト Pickup Project

開先加工ロボット導入

業界初、開先加工ロボット導入!
  • 技術部 部長 清水博文
  • 技術部 係長 宮本成明

手作業で行われていた開先加工工程を自動化

鋼矢板の溶接に不可欠な開先加工の品質向上に着手

土留めに用いる鋼矢板をはじめ、ヒロセでは建築や土木のさまざまな工事現場で使用される仮設鋼材のリース事業を行っている。工事現場によって顧客が要望する鋼矢板の長さは異なるため、必要に応じて要求された長さに鋼矢板を溶接して貸し出すことになる。

この溶接作業において、溶接品質(溶け込み)を決定する重要なポイントとなるのが、溶接の前処理工程である“開先加工"だ。“開先"とは溶接を行う材料 (鋼矢板)に設ける溝のことで、“開先"を施したうえで溶接をしないと溶接部への溶接材料の溶け込みが不十分となり、溶接部は母材と同等の強度にならない。そして、この“開先加工"は通常、熟練の作業者がガス切断の後、グライダーをかける手作業によって行われている。そのため、作業者にとっては非常に重労働であり、“開先"を要求仕様どおりにきれいに処理するには時間もかかる。

今から十数年前の1990年代初頭、こうした鋼矢板溶接の品質向上と作業の効率化に取り組んだのが、当時生産管理部に所属していた清水博文だった。 清水がまずトライしたのは、加工機械を使って“開先"を施す方法だった。しかし、加工が可能なことは確認できたものの、その設備投資に数千万円かかることから断念せざるを得なかった。そして、次に清水が着目したのが、産業用の切断ロボットだった。

開先加工せずに溶接した鋼矢板の断面 開先加工して溶接した鋼矢板の断面 開先加工をして溶接した鋼矢板

機械的なセンサーが開先加工ロボット開発の扉を開く

「産業用ロボットの場合、加工する材料の形状や寸法が均一でないと形状を認識するための正確なセンシング(センシング=ロボットに検知装置を取付けて物の形状を検知すること)ができず、加工が難しいんです。しかし、鋼矢板は一度現場で使用されるとミリ単位で変形し、傷みや錆も出ます。そもそも繰り返し使用した鋼矢板はロボット加工に向かない材料なんですね。実際、当時産業用ロボットのセンサーは電気検知式のセンサーが主流だったのですが、このセンサーですと鋼矢板の品質のバラツキが大きすぎて正確に形状を検知できませんでした」と清水は振り返る。

それでも清水はあきらめず、鋼矢板でも正確に形状を認識できるロボットはないかと、各メーカーのさまざまなロボットを粘り強く調査していった。その中に彼の目に止まったロボットがあった。
「そのロボットは、機械的なセンサーを使っていました。これは電気検知式センサーに比べてセンシングの速度は遅いものの、材料の品質にある程度バラツキがあっても正確にセンシングできるところが特長でした。これを開先加工に用いれば、鋼矢板の加工に使えるのではないかと考えたのです」(清水)。

こうして、開先加工ロボット導入への新たなトライがスタート。清水はメーカーのスタッフとともにロボットの開発を進めた。そして、約1年後の1993年、ようやく開先加工ロボットが完成した。
しかし、それは“開先加工"のためのツールが完成したに過ぎない。これをどのように制御し、動かすのか。そのプログラミングが清水らの次の課題となった。しかも、それこそが、ロボット導入にあっての最も高いハードルだったのである。

試行錯誤の連続だったプログラム開発

「開先加工ロボットには、開先加工する材料に応じてどのように動作し、どう加工するかの基本ワークが設定されています。そして、センサーを材料にタッチさせることによってそれぞれの形状の誤差を認識し、基本ワークと演算させて誤差分だけズラして開先加工の軌跡を描かせるのです。このプログラミングの作業はとても複雑で、苦労させられました」と話すのは、実際にプログラム開発を担当した宮本成明である。

「開先加工する材料に応じて」と宮本が言うように、鋼矢板のサイズ、開先加工の方法や組み合わせによって——たとえば、開先の加工方法にはV形60度やレ形45度と呼ばれるものなどがある。また、鋼矢板は互い違いに組んでいくため、溶接する面に応じて開先を材料の外側に向けてとる場合や内側に向けてとる場合などがある——それぞれ基本パターンとなるプログラムを組まなければならない。宮本は、鋼矢板の形状を把握させるため、独自のプログラムを作成し、検証して修正するという作業を何度も何度も繰り返した。

こうした宮本のプログラミングに奮闘する日々が続き、開先加工のためのロボットシステムは、ようやく完成の日の目をみた。それは、開先加工ロボット自体が完成してから約2年後、1995年のことだった。そして、東京工場と大阪工場に計3台導入され、稼動し始めたのである。
しかし、宮本は一息つく間もなく、開先加工ロボットのプログラミングに追われた。
「鋼矢板にはさまざまな種類があるので、切断ロボットで加工できる種類を増やしていく必要があったのです」(宮本)
2000年を迎えた頃、宮本のプログラミングによる基本パターンは約30種類に上り、ロボットが導入されている工場での開先加工の作業はほぼ100%をこなせるまでに進化させていったのである。
そして、2005年、清水、宮本らは、第二世代となる新しい開先加工ロボットの開発に着手し始めた。

  • 開先加工をして溶接した鋼矢板
  • 開先加工をして溶接した鋼矢板
  • 開先加工をして溶接した鋼矢板
  • 開先加工をして溶接した鋼矢板
  • 開先加工をして溶接した鋼矢板
  • 開先加工をして溶接した鋼矢板

ロボット化への更なる挑戦

汎用性を高めた第二世代の切断ロボットの開発

「切断ロボットを導入してから約10年。プログラムの基本パターンを増やすなど工場での汎用性を高め、使い勝手を良くしていくなかで、ロボットの開先加工の精度も安定し、現在はフル稼動状態にあります。ロボットによる開先の切断面は手作業に比べて格段にきれいで、品質も均一であることが工場の作業員にも広く理解され、社内のロボット未導入の工場から導入の要望が届くようにもなりました。また、全社的な取り組みテーマとして加工事業を推進するなか、社外からの開先加工の注文も増えてきました。こうしたニーズに対応するため、新たな切断ロボットを開発、導入することにしたのです」と清水は、新たな開発の背景を説明する。

今回、パートナーとなったロボットメーカーは10年前に導入したロボットよりもスペックが向上していることから、採用の決め手となった。センサーに関しては、これまで蓄積してきたノウハウを活かすために、従来の機械的センサーを用いることにした。
「新開発の開先加工ロボットの特長は、H型鋼と鋼矢板のワイド型の開先加工にも対応できるようにしたこと。第一世代ロボットのプログラム開発で苦労しながら多くのノウハウを蓄積してきたので、今回の開発スピードは速かったですね」と宮本は微笑む。
その言葉どおり、開発期間は1年足らずで、2006年には名古屋と福岡の工場に導入、07年3月には東海工場にも導入する。
宮本は、開先加工ロボットの開発を振り返り、こう説明する。

工場に導入された開先加工ロボット

「開先加工ロボットの開発には、3つのノウハウが必要でした。1つはタッチセンサを含めた産業用ロボットのノウハウ、もう1つはロボットを動かすプログラムのノウハウ、そして、3つ目はガス切断のノウハウです。この3つのノウハウを融合させることによって初めて開先加工ロボットを実用化することができたのです。そして、そのノウハウの融合をメーカーに対し主導したのがヒロセです」
「つまり、ヒロセが扇の要となり、ロボットメーカーのノウハウ、協力会社のガス切断に関するノウハウ、そして、自らが蓄積したプログラムのノウハウの3つを融合させることによって、開先加工ロボットは生まれたのです」(宮本)
「10年前、私たちは業界に先駆けて溶接の品質向上をめざし、仮設鋼材の開先加工にロボットを導入しました。しかも、私が知る限り、矢板の開先加工ロボットを導入しているのは現在もヒロセだけです」と清水は胸を張る。そして、今後のテーマについても語り始めた。

加工の応用事例

開先加工ロボットの全工場導入と新たなロボット開発のビジョン

「2007年度中に、この第二世代の切断ロボットを全工場に導入する計画です。これにより、仮設鋼材の溶接品質の向上を図るとともに、社外からの開先加工の受注をさらに推進していきたいと考えています」(清水)
また、清水の未来を見据える視線は、開先加工ロボット以外にも注がれている。それは、溶接ロボットの開発だ。
「じつは以前、矢板用溶接ロボットの開発にトライしたものの、挫折した経験があります。そのときの課題もセンサーでした。溶接ロボットは、溶接のためのアークを出しながら、形状の誤差を検知しなければならないので、通常の切断ロボットに用いられるタッチセンサはアークの干渉を受けてしまい、使えません。かといって、電気的センサーでは誤差を検知し切れないため、断念したのです」(清水)
では、今また溶接ロボットの開発をめざそうとしている理由はどこにあるのか。
「視覚センサーの進歩です。溶接材に触れることなく形状を認識することのできる視覚センサーならば、アークの干渉を受けず、正確に誤差を検知できるのではないかと考えています。溶接ロボットに、この視覚センサーが有効であることが検証されれば、一気に開発に進みたいですね」と清水は目を輝かせる。
これまで、数々の"業界初"の工法や技術を生んできたヒロセ。産業用ロボットの導入においても、先駆的な取り組みに果敢に挑む、そのチャレンジングスピリットは健在だ。